2021年6月12日、テランス・マッキニーUFCデビュー戦。
その試合時間は7秒。ワンツーのコンビネーションで相手選手の意識を失くし、UFCライト級の最短KO記録を出して注目の選手となった。
マッキニーは、ワシントン州スポケーン出身。彼は将来有望な選手のように見えるが、成功とは程遠い人生を送っていた時期があったという。
7年前、マッキニーは意識を失い横たわっていた。オクタゴンでパンチを受けて倒れていたのではなく、薬物乱用で生死をさまよっていた。
薬物中毒者だったマッキニーは、2014年のある日酒を飲んで薬物を過剰摂取し窓から転落した。
「すでに酔っぱらっていて、LSDとマッシュルームをやって、ラリっていたんだ。するとどこからともなく悪魔たちがやってきたから、俺はお祈りをして色々な国の言葉を話していた。頭の中で祈りを唱えながら、『お前らなんて怖くないぞ』と言って窓の方に歩いていった。その後、体の機能が停止したんだ。」
「自分が窓から落ちる景色が目に入ってきたけど、自分では何もすることが出来なかった。体は全く動かない。窓につんのめって、自分で止めることが出来なかったんだ。」
マッキニーは、落下の衝撃で意識を失う。意識が戻った時には血が噴き出ている状態で、警察が彼を助けようとしていたという。彼に向かって「君のために医者を呼んだ。誰も君を傷つけようとしてない」と言っているボディカメラの映像が残っている。
しかし、薬物の影響でマッキニーは錯乱状態になっており、その場にいた警官と戦おうとしてしまう。警察はテーザー銃を何発も打ってようやく彼を担架に縛り付けて救急車に乗せることができたほどだった。
その後、マッキニーの心臓は止まる。医療補助員が必死に対応し蘇生させたが、心臓は再び止まってしまう。命を失いかけたことや警察と争った記憶はないが、手錠をかけられて病院のベッドの上にいたことは覚えているという。
「4人の警官に負傷を負わせてしまったから、人生終わったと思ったよ。刑務所に4-5年入るだろうと予想していた。」
しかし、マッキニーに与えられたのは240時間の公共労役と神のお告げだった。
「自分が何をしているのかちゃんと向き合って考えることになった。今は楽しいけど、死んだらどうする?もしあの日に死んでいたら俺は自分が成し遂げた事に満足できるか?ドラッグで死んだ人で終わりたくない。それは俺が求めるレガシーではない。あの出来事で自分は謙虚になって正しいことをするようになった。」
一年後、マッキニーは負傷を負わせた警官に会いに行き謝罪をしている。そして「人生の二度目のチャンス」を与えてくれたことに礼を言ったという。
マッキニーは、母と神のおかげで逆境から立ち上がることができたと考えている。
「神が俺に心の平和を与えてくれる。暗闇にいるときも彼が俺を導いてくれた。母親は俺の道しるべになってくれている。俺の親友でもあり、リーダーでもある。俺のことでいつも責任をとってくれている。俺が道から外れそうになった時に正しい道に戻してくれる。」
「母親に俺のことを誇りに思って欲しい。俺がした事が大きなストレスになって、トラウマになっている。さんざん迷惑をかけたから、母親には借りがあると感じている。これまでの失敗を取り戻さないといけない。」
「UFC王者になれればそれでいいって訳じゃない。俺は人々の心を癒したい。試合だけでなく、自分がすること全てで。マットの上だけじゃなくて、それ以外の場所でも。喪失感とか孤独を感じている人の話を聞きたい。一人でも気にかけているってことを伝えることが大事なんだ。」
マッキニーは、困難な状況にいる人たちへこんなアドバイスを送っている。
「自分のサポートチームを信じて、自分だけで考えないで欲しい。結局大事なのは、家族のことを考えることだ。彼らを悲しませてはいけない。彼らは家族が最高の人生を送ることを望んでいる。それを心にとめて、エネルギーにすればいい。」
「間違いを正すのに遅すぎるってことはない。」